みなさん、「洗い張り」というお仕事をご存知でしょうか?洗い張りとは着物をほどいて反物に戻し、洗い、のり付けをして干す作業の事です。つまり着物に仕立て直す前の作業ですね。写真にあるのは「伸子針(しんしばり)」という洗い張りの道具です。反物の端を針の出た木(写真2枚目の上参照)ではさみ、細い針のでた竹串(写真2枚目の下参照)の両端に反物の耳を引っ掛け、たこのようにピンと張ってふのりをはけでぬり乾かすための道具です。文献でしか伸子針を使った洗い張りの作業は見た事がありません。どなたか今も洗い張りをされている方がおられるようでしたら是非教えていただきたいものです。(ちなみにわたしは伸子針を古道具屋で2000円で手に入れたのですが、今でも有難いことに伸子針を作っているところがあるらしく4~5000円で新品が手に入るようです。)
昔はお正月には家族全員分洗い張りをして仕立て直した着物をきていたそうです。着物は洋服みたいに頻繁には洗いませんが、一年に一度年末には洗い、新調していたようです。着物は3回洗うと寿命が来るといいますが、洗い張りをすると着物の‘もち’がいいと聞きました。ですが、普段着として毎日着て、3年も持てば充分かもしれません・・・。
でも寿命がきたからといってすぐごみにならないのが着物のいい所であり、日本人の素晴らしい知恵だと思います。前回の「日本人の知恵袋 和裁」でも似たような事を書きましたが、お母さんの着古した着物は子供の着物に生まれ変わりますし、その子供が着古した着物は蒲団や座布団に生まれ変わり、その蒲団や座布団としても使えなくなってしまえば、雑巾やハタキ(昔はどうしようもなくなった着物を裂いて、はたきを作っていたそうです)に生まれ変わります。
今日、この‘モノ’が溢れる時代に、その精神は影を潜め、わたしのようにその素晴らしさがわかっていてもなかなか実行に移すのは難しくなってしまっています。‘モノ’がないからこそ大切に使う文化が生まれたのであり、有効に使う知恵が生まれたのだと思います。
できる事から始めようと思っていますが、‘モノ’のない環境、つまり昔の日本人と同じような環境に自分の身をおくのも一つの方法かもしれませんね・・・。